hmd_tarakoのブログ

調べ物と考え事。

ポケモンのネズミざんを計算した

これはホシハウス Advent Calendar 2022 - Adventar 4日目の記事です。4日目担当のたらこ@hmd_tarakoです。

昨日はいんげんくんの「今年聞いた音楽とか観た映画とか買った服とかの話」の予定でしたが……?

さて、ポケットモンスタースカーレット・バイオレットが11月18日に発売されました。発売日にダウンロード済みなんだけど記事執筆時点で起動時間0秒。プレイするつもりはある。

未プレイだけど色々話は聞くもので「ネズミざん」のことを聞いて興味を持ったので色々計算してみました。

ねずみ算とは

2匹のねずみが1ヶ月で12匹の子を産んで14匹家族になる。この14匹家族もまた1ヶ月で(7対が)12匹ずつ子を産んで98匹家族になる。数カ月後には何匹になっているか?という計算をねずみ算と呼ぶ。

このねずみの数の変化は等比数列とみなすことができる。ここで、

ある時2匹だったねずみは1年後には何匹になるか?

という問いがあったならこれは初項2, 公比7の等比数列の第13項に相当するから


2 \times 7^{13-1} = 27,682,574,402

と求められる。

この様な勢いで増える様子を「ねずみ算式に増える」と形容し、「ねずみ講」という言葉はこれに由来する。

ワッカネズミ系専用技

……という話ではなく、今回話したいネズミざんポケモンの技。ポケットモンスタースカーレット・バイオレットで新登場したポケモンワッカネズミとその進化イッカネズミにはおかたづけネズミざんという2つの専用技があり、どちらも強力。

おかたづけ

お互いの場に設置技*1みがわりがあればそれら全てを解除し、自身の攻撃と素早さを1段階上げる。解除するものが無くても使用可能でりゅうのまい+αの性能といえる。強いね。

今回はこれ以降触れません。

ネズミざん

今回の本題。

1~10回攻撃を繰り返す、基本威力20のノーマルタイプ物理技。最大回数命中すれば威力200に相当する。イッカネズミはノーマルタイプなため素の状態でタイプ一致の1.5倍。また隠れ特性イッカネズミテクニシャン*2であるためその場合はさらに1.5倍になる。

テクニシャンイッカネズミがノーマルタイプでテラスタルすれば1発あたり40、10回命中で威力400相当。みがわりはらだいこじたばたカムラのみマッスグマ あたりで僕の時代は止まっているので数字のデカさにビビる。

さてこの技は「ねずみ算」を意識しているであろう大量の攻撃を浴びせるわけだが、実際の所何回当たるのだろうか?

2~5回連続攻撃技の期待値

期待値計算の考え方の整理のためネズミざんの前に寄り道してよく使われる2~5回連続技について簡単に計算してみる。

ネズミざんの数値だけ見たいのなら「ネズミざんに関わる確率と期待値」まで読み飛ばしても良い。

命中回数の仕様

タネマシンガンロックブラストのような2~5回攻撃は技の命中率に基づいて命中を判定した後、2,3,4,5回それぞれに設定された発生率で命中回数が決まる。

表1. 2~5回連続攻撃技の命中回数の内訳(第5世代以降)

回数 発生率
2 35%
3 35%
4 15%
5 15%

命中回数期待値

回数とその発生率の積を全て足し合わせると回数の期待値となるのでそれぞれ計算して合計すると、2~5回連続技の命中する回数の期待値は3.1回となる。

表2. 発生率を重みとした2~5回連続攻撃技の命中回数

回数 発生率 回数*発生率
2 35% 0.7
3 35% 1.05
4 15% 0.6
5 15% 0.75
合計 3.1

技の命中率の考慮

ロックブラスト(命中90)は技の命中判定で10%の確率で外れる2~5回連続攻撃技である。言い換えると「0回攻撃」が10%の確率で発生する。命中90の2~5回攻撃技は0回攻撃を考慮すると 0 \times 10\% + 3.1 \times 90\% = 2.79回が期待値になる。

2~5回連続攻撃技において命中率は「0回と2~5回のどちらになるか?」にしか関与しない。攻撃回数が決定した後に命中率に依存して外れることは無いので、攻撃回数が2回に決定して片方が外れる(命中回数が1回になる)ことはない。期待値は既に計算済みだが次表としても記す。

表3. 発生率を重みとした命中90の2~5回連続攻撃技の命中回数

回数 発生率 回数*発生率
0 10.0% 0
2 31.5% 0.63
3 31.5% 0.945
4 13.5% 0.54
5 13.5% 0.675
合計 2.79

ネズミざんに関わる確率と期待値

命中回数の仕様

ネズミざんの攻撃回数は2~5回連続攻撃技と異なる仕様で決定される。

先述した様に2~5回連続攻撃技は技そのものの命中が判定された後に予め設定された確率で攻撃の回数が決まるが、ネズミざんネズミざんの命中率に基づいて1回でも外れるまで最大10回攻撃を繰り返すようになっている。既存の技ではトリプルキックトリプルアクセルが上限3回で同様の仕様だったらしい。

n回命中する確率

ネズミざんの1回毎の判定の命中率をa(基本的に90%)、ネズミざんn回命中する確率をp_nとする。n回命中で終わる確率は「n回連続で命中を成功させ、n+1回目の命中判定に失敗する」確率だから


p_{n} = a^n(1-a)

といえる。ただしネズミざんは10回までしか判定せず、11回目の命中判定をすることなく終了するためn=10の時のみ「10回連続で命中を成功する」ことを考えれば良いので


p_{10}=a^{10}

である。よってネズミざんn回命中して攻撃が終わる確率は


\begin{eqnarray}
p_n =
\begin{cases}
    a^{n} ( 1 - a ) & ( 0 \leq n \leq 9 ) \\\\
    a^{n} & ( n = 10 )
\end{cases}
\end{eqnarray}

となる。これをそれぞれ計算して表にすると次のようになる。

表4. ネズミざんの命中回数の内訳

回数n 発生率p_n
0 10.00%
1 9.00%
2 8.10%
3 7.29%
4 6.56%
5 5.90%
6 5.31%
7 4.78%
8 4.30%
9 3.87%
10 34.87%

ネズミざんを3回使うとその内1回は10回命中が発生する計算になる。

命中回数期待値

命中回数の期待値Eは回数とその発生率の積の総和なので


\begin{eqnarray}
E &=& \sum_{n=0}^{10} n p_n
\end{eqnarray}

である。次表に各項を計算してまとめる。

表5. 発生率を重みとしたネズミざんの命中回数

回数n 発生率p_n 回数*発生率 n p_n
0 10.00% 0
1 9.00% 0.09
2 8.10% 0.162
3 7.29% 0.2187
4 6.56% 0.26244
5 5.90% 0.29525
6 5.31% 0.31886
7 4.78% 0.33481
8 4.30% 0.34437
9 3.87% 0.34869
10 34.87% 3.48678
合計 5.86189

右列の合計が回数の期待値なので、ネズミざん1回当たりの命中する回数の期待値は5.86回である。威力に換算すれば117相当でおんがえし(最大102)より高い。

持ち物:こうかくレンズ

こうかくレンズは持たせたポケモンの技の命中率を1.1倍にするアイテムである。これによりネズミざんの命中率は90%から99%になる。命中率をa=0.99として前項の表を計算し直すと次のようになる。

表6. こうかくレンズを持たせた時の発生率を重みとしたネズミざんの命中回数

回数n 発生率p_n 回数*発生率 n p_n
0 1.00% 0
1 0.99% 0.0099
2 0.98% 0.01960
3 0.97% 0.02911
4 0.96% 0.03842
5 0.95% 0.04755
6 0.94% 0.05649
7 0.93% 0.06524
8 0.92% 0.07382
9 0.91% 0.08222
10 90.44% 9.04382
合計 9.46617

10回命中率は90.44%となり10回当たらない方が珍しい。命中回数期待値も9.47回に跳ね上がり、威力換算で189相当ととんでもない。

持ち物:おうじゃのしるし

おうじゃのしるし は持たせているポケモンが相手より先に行動して攻撃を命中させると10%の確率でその相手をひるませるアイテムである。連続攻撃技と組み合わせた時には攻撃が当たる度にひるみ判定を行い、1回以上ひるみ発生の判定がされればひるみが発生する。n回攻撃時のひるみ発生率f_n


f_n = 1-(1-0.1)^n = 1-0.9^n

となる。これも各命中回数とひるみ発生率の積をそれぞれ計算してみる。

表7. 発生率を重みとしたその命中回数におけるおうじゃのしるしによるひるみ率

回数n 発生率p_n ひるみ率f_n ひるみ率*発生率 f_n p_n
0 10.00% 0.00% 0
1 9.00% 10.00% 0.009
2 8.10% 16.20% 0.01539
3 7.29% 27.10% 0.01976
4 6.56% 34.39% 0.02256
5 5.90% 40.95% 0.02418
6 5.31% 46.86% 0.02490
7 4.78% 52.17% 0.02495
8 4.30% 56.95% 0.02452
9 3.87% 61.26% 0.02373
10 34.87% 65.13% 0.22710
合計 0.41609

期待値41.61%でひるませる。まひ状態のポケモンいわなだれ*3した時の行動不能率に迫る。まひるみはクソ。

じゅうりょく*4等で100%10回命中するならひるみ率は65.13%であり、てんのめぐみトゲキッスのでんじはエアスラッシュ*5の行動不能率に迫る。まひるみはクソ。

持ち物:いかさまダイス

いかさまダイスは持たせているポケモンの連続攻撃技の回数を多くするアイテムである。

連続攻撃技を4回以上確定にするらしく「連続攻撃技が当たったならその回数を、最大攻撃数が4未満ならその最大攻撃数に、最大攻撃数が4以上なら4~最大攻撃数の中から均等な割合でランダムに抽選した回数に決定する」らしい。これ本当か?いかさまダイスネズミざんだとじゅうりょく中でも10回未満が出ることになる。

ネズミざんの場合は「個々の判定においてネズミざんの命中率で判定する」仕様を上書きし、2~5回連続攻撃技に似た確率分布になる。各命中回数ごとに計算したものは次の表のようになる。

表8. いかさまダイスを持たせた時の発生率を重みとしたネズミざんの命中回数

回数n 発生率p_n 回数*発生率 n p_n
0 10.00% 0
1 0.00% 0
2 0.00% 0
3 0.00% 0
4 12.86% 0.51429
5 12.86% 0.64286
6 12.86% 0.77143
7 12.86% 0.9
8 12.86% 1.02857
9 12.86% 1.15714
10 12.86% 1.28571
合計 6.3

元の期待値5.86回に比べると約1.075倍にしかなってない。ネズミざんの威力上げのためだけであればシルクのスカーフ*6でも持たせたほうが良い。「絶対に1~3回で終わらせたくない」とか「サブウェポンとして使っているタネマシンガンを強くしたい」とかかなり強い理由が必要そう。

ネズミざんのねずみ算

計算自体はもう済んでるけどもネズミざんの計算を進めていると「ねずみ算」っぽいことになった。せっかくなのでそれも記しておく。

命中回数期待値の式変形

ところでネズミざんの命中回数期待値の計算の式変形を進めてみる。

E=\sum_{n=1}^{10}a^{n}という等比数列の第1項から第10項の総和になった。「ねずみ算」は等比数列だったがネズミざんでも等比数列が出てきてしまった!

一般に初項a, 公比r等比数列の第1項から第n項までの総和は\frac{a(1-r^{n})}{1-r}であるから


\begin{eqnarray}
E   = \sum_{n=1}^{10} a^{n}
    = \frac{a(1-a^{10})}{1-a}
\end{eqnarray}

ここで


\begin{eqnarray}
a = 0.9  \text{のとき} E &=& \frac{a(1-a^{10})}{1-a} &=& 5.86189 \dots \\
a = 0.99 \text{のとき} E &=& \frac{a(1-a^{10})}{1-a} &=& 9.46617 \dots
\end{eqnarray}

となり表計算した答えに確かに一致する。

おうじゃのしるしのひるみ率期待値の式変形

さらにおうじゃのしるしのひるみ率期待値の計算も式変形してみる。

おうじゃのしるしのひるみ率期待値をF=\sum_{n=0}^{10} f_{n} p_{n}とする。

絶対もっと楽な考え方の式変形があるんだろうなとは感じつつも、めでたくこれも


\begin{eqnarray}
F = a P_f \sum_{n=0}^{9} ( 1 - P_f )^n a^n
\end{eqnarray}

として初項a P_f, 公比( 1 - P_f ) a等比数列の和の形にできた。既に何度も等比数列の和の公式で総和形式から変換しまくっているが項数に注意して改めてこれを総和でない形に直すと


\begin{eqnarray}
F   = a P_f \sum_{n=0}^{9} \{ ( 1 - P_f ) a \} ^n 
    = a P_f \frac { 1 - \{ ( 1 - P_f ) a \}^{10} }{ 1 -  ( 1 - P_f ) a } 
\end{eqnarray}

となる。a = 0.9, P_f = 0.1を代入するとF = 0.41610 \dotsで無事表計算で総和したものと合致した。

まとめ

表9. ネズミざんの命中回数とその回数に対応する確率のまとめ

回数n 通常
発生率p_n
おうじゃのしるし
ひるみ率f_n
いかさまダイス
発生率p_n
こうかくレンズ
発生率p_n
0 10.00% 0.00% 10.00% 1.00%
1 9.00% 10.00% 0.00% 0.99%
2 8.10% 19.00% 0.00% 0.98%
3 7.29% 27.10% 0.00% 0.97%
4 6.56% 34.39% 12.86% 0.96%
5 5.90% 40.95% 12.86% 0.95%
6 5.31% 46.86% 12.86% 0.94%
7 4.78% 52.17% 12.86% 0.93%
8 4.30% 56.95% 12.86% 0.92%
9 3.87% 61.26% 12.86% 0.91%
10 34.87% 65.13% 12.86% 90.44%
期待値 5.86回 41.61% 6.3回 9.47回

仕様を勘違いしている、計算を間違えている可能性はあるので参考程度に。

おわりに

いやあ……こうかくレンズネズミざんは強敵でしたね。

はてなブログ内はいくらかTeXの記法で数式が書けるようなので表と数式の両方を使って記事を書いてみました。比較的単純な計算だったと思うけど式変形を進める勘もかなりわるくなっていた……

年々ポケモンを進めるモチベーションが引いていってるけども今作はストーリー終盤が特に良い感じらしいのでストーリー目当てで進めたいところ。

アドベントカレンダー次回予告

明日はホシくんの「2022年にプレイしたゲームを振り返る」です。Nintendo Switchは今年もラインナップがイケイケだったかと思いますが、任天堂好きのホシくんはどんなゲームをプレイしたのでしょうか。もちろんSwitch以外のプラットフォームのゲームもプレイしていると思うのでそちらにも期待です。

*1:設置技:まきびし、どくびし、ステルスロックねばねばネットが該当。

*2:テクニシャン:基本威力60以下の技の威力を1.5倍にする特性。

*3:まひ状態のポケモンいわなだれいわなだれの命中率を考慮して約45.3%行動不能

*4:じゅうりょく:お互いのポケモンを地面にいる扱いにし、更にお互いの技の命中率を約1.67倍にする。

*5:てんのめぐみトゲキッスのでんじはエアスラッシュエアスラッシュの命中率を考慮して約67.8%行動不能

*6:シルクのスカーフ:ノーマルタイプ技の威力を1.2倍(第4世代以降)にする。